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麻雀しながらFull house

役に立つ英語の知識と麻雀の面白さを世の中に発信するブログです(囲碁始めました)

火車~宮部みゆき

ブログのタイトルの麻雀はいったいどこへいったやら、最近は専ら読書感想文と化している当ブログである。

数年前に読んで以来本棚に眠ったままの火車を思い出したのは、東京都知事選に宇都宮健児氏が出馬するというニュースを耳にした時だった。本作に登場する溝口弁護士のモデルとされている人物が彼なのだ。また、ストーリーを思い返してみると、あちらこちらで思い出せない箇所があって気になったこともあり、半ば思い付きで数年ぶりに手に取って読み始めた。

父親の借金によって幼少期に一家夜逃げを経験した新庄喬子。しかし、その後も借金取りに追われる日々が続く。どこまで逃げても必ず何かの足跡を追ってやってくる借金取りによって喬子の幸せは崩れ去ってしまう。そこで、喬子は幸せな人生を手に入れるためには、自分を完全に消し、全く別の人物に成り代わり生きていくしかないと考えた。周到に練った計画で関根彰子を殺害し、章子として新しい人生を始めた姜子だったが、思わぬところからほころびが生じ再び逃亡者となる。逃げ続ける喬子の生きてきた道を、刑事が一歩ずつ辿り姜子へと近づいていくといったストーリーになっている。作品のスタイルとして面白いのが、最後までいわゆる犯人である姜子が登場しない点だ。犯人の描写はすべて間接的なもので、直接的なものはない。それにもかかわらず読者は鮮明に喬子という人物像を心の中に描くことができるほど表現が巧い。読者は喬子の歩いた道をたどっていきながら彼女が何を考え、感じたのかを、登場人物の目線で読み進めることができる。そして、クライマックスは犯人が直接描かれないという火車を完結させるににこれ以上ないものだと感じる。いよいよ喬子にたどり着いたとき彼女の言葉を聞きたいという思いは、作中の喬子を追っていた登場人物、そして全ての読者の願望だろう。そんな期待の中この物語は「新庄喬子ーその肩に今、保が手を置く」と閉められる。このエンディングを読み、私はただただ美しいと感じた。